第05回 - 09年度秋学期

今週の授業の内容は、発表の技術についてです。

口頭発表の際の心得

プレゼンテーションは、多くの場合、口頭で発表するという経験をともないます。慣れた人はそう苦労なく発表することができるのですが、あまり経験のない人にとっては、人前で話すということが、まず大きな課題になることでしょう。
多くの人の前で話すには、いくつかのコツがあります。その点をクリアすることで、少なくとも「聞き苦しくない発表」のレベルまではもっていくことができます。

聞き苦しい発表とは

今までに、さまざまなプレゼンテーションを見てきましたが、これはいただけないな、と感じることも少なくありません。それは多くの場合、発表者の態度がすべてです。発表者が自信を持って、明確な主張をし、わかりやすくストーリーを提示してくれれば、実際には「そこそこ」の出来であっても、プレゼンテーション自体は良い印象になります。逆に、聞き苦しい発表はどのようなものでしょう。下にリストしておきます。

  • 聴衆の方を見ずに発表する
  • 声が小さくて何を言っているかよくわからない
  • 自分が主張していることがよくわかっていない
  • つまり自信がない
  • 聞いている側がよくわからないまま話が勝手に進む
  • スライドに文章が一杯書いてあり、それを読み上げるだけ
  • スライドが足りない、または多すぎる
  • 時間を大幅にオーバーしていても大声で発表を続ける


書いていて嫌になってきました。しかし、このような発表は結構あります。このような発表は公害といっても良いでしょう。このエントリーを読む人は、ぜひこのような発表をしないように心がけてください。

口頭発表の技術

話して伝える、ということは、多くの人が日常的に行っている作業です。そこで、口頭発表もその延長でできるのではないかという誤解が生じているようです。実は口頭発表という作業には、独特の技術が必要とされます。日ごろ「自分は機転の利かない話し下手だ」と思っている人であっても、プレゼンテーションの場で話す技術は、下のいくつかの点に注意するだけで、確実に上達します。

話しだす前に資料を見せましょう

まず、話し出す前に、資料を見せましょう。人間、何も手がかりがない状態で話し始めるのには不安があります。しかし、自分の作成した資料をまず提示し、自分で次に何を話すのかが少しでもわかっている状態であれば、少し安心することができます。まずは自分のためにも資料を見せましょう。

聞く側からすれば、どんなことを話すのかを事前に少しでも把握することができる、という利点があるので、有効な技術です。隠した情報を出すことで驚かせる、というような演出は、もっとプレゼンテーションの技術が上達してからで十分です。

相手を良く見て話しましょう

発表を聞いてくれるために集まっている人を見ないで、用意した原稿の方ばかりを見て発表する人がいます。これは集まってくれた人に失礼です。自分が失敗しないことの方ばかりが気になって原稿に集中してしまうのでしょうが、その態度の方がより大きな失敗を呼んでいると思いましょう。聴衆はスライドではなく、発表者を見に来ているのです。ではどうしたらいいのでしょう。いくつか技術があります。

  • 会場の四方に視線を配りながら発表する
    • 会場は広くても狭くても、人が多くても少なくても、全体を見渡すようにしなければいけません。話すときには会場にいる人の顔を見る、というのは鉄則です。
    • まずは一番左奥にいる人に視線を向けてからスタートです。次に右奥、左手前、右手前、そして左奥と、会場をゆっくり見回しながら話を続けます。しばらく話をしていると、自分に目を向けてくれている人が出てきますので、その人たちを順番に見ながら話をすると良いでしょう。ただし、特定の一人の顔をじっと見続けてはいけません。
  • ちゃんと姿勢を正してきちんと立って笑顔で話す
    • 緊張して縮こまっている人がいますが、できるだけポジティブに見える状態を作りましょう。難しいかもしれませんが、目を大きく開き、口角を上げて笑顔を作ってみてください。プレゼンテーターが暗い顔をしていると、聞いている側も暗くなってしまいます。できるだけポジティブな印象を与えるようにします。
  • 大きな声でゆっくりと話す
    • 人前で話すことに慣れていないと、早口になりがちです。しかし、話す速度が早すぎると、予定していた時間よりもプレゼンテーション自体が短くなってしまいます。これでは質疑応答の時間が増える、ということになります! 人前で話すのが苦手な人にとって、人前で質問に答えることはさらに難しいことです。ですから、きちんと予定の時間で終わるように余裕を持って話しましょう。また、だんだん小声になってしまうことも多いのですが、それでは聞いている側が何度も「もっと大きな声で」と注文をつけることになります。急かされる方がよっぽど緊張しますので、大きな声でゆっくりと、自分の言っていることはプレゼンテーションの間だけでも絶対正しいんだ、と思って発表してください。
    • よく、原稿を棒読みする人がいますが、それはしないでください(ただし、どんなことを話すかのレジュメ程度なら問題ありません)。


関連資料として以下のページを上げておきます。

プレゼンテーションを聞く側の態度

さて、プレゼンテーションを受ける側の態度についての資料です。
ここまではプレゼンテーションを「する側」に関してのアドバイスを掲載してきました。しかし、ここからは、プレゼンテーションを「聞く側」に関してのアドバイスです。

プレゼンテーションを行う側がいくら一生懸命に話そうとしていても、それを受ける側が拒絶しようとしたなら、プレゼンテーションという場自体が成立しません。プレゼンテーションをする側と受け手側が同じように積極的に参加することなくては、プレゼンテーションとは成功しないものなのです。

上手にプレゼンテーションを受けるための態度は以下の通りです。

意識的に積極的に聞いている姿勢を取る

まずは姿勢から決めていきましょう。聞く側の態度を大きく決定するのは姿勢です。
当然ながら、プレゼンテーションの間に寝てしまったり、周りをきょろきょろ見回したりすることは行ってはいけません。目の前のプレゼンテーションに集中しましょう。腕組みをして考え込むのも、プレゼンテーターが話しづらくなるので、避けた方が良いでしょう。

メモを取る

聞く側は必ずメモを取るべきです。むしろ、絶対にメモは取らなければいけません。プレゼンテーションの資料が配布される場合でも、その原則を守って下さい。

プレゼンテーションの主な内容はプレゼンテーターが直接口頭で話した事柄です。資料が伝えることよりも、より多くの情報は、口頭で伝えられているのです。もしもそのプレゼンテーションの内容を他の人に伝えねばならないとしたら、それはメモに頼らねばならないということに他なりません。

しかし、メモの取るということは、習慣化していないと難しい、という人もいます。確かにそういう側面もあるでしょう。そこで、ここでは簡単なメモの取り方を解説します。

メモの取り方

メモを取る場合に重要なことは、そのメモを誰が見るのかということです。単語だけが並んだメモを見せられても、それを理解できる人は少ないでしょうし、数週間、数ヶ月後の自分自身もまたそれを理解できるかどうか疑問です。従って、メモはできるだけ丁寧に書くべきではあるのですが、話を聞くよりも、書き記す方が時間がかかります。つまりその場でメモを書くことに回せる時間は限られているのです。「全てを書き留める」ことは、速記者でもない限り、物理的に不可能です。しかも、プレゼンテーションや講演を聴く場合には、「その場面を書き留める」よりも、その場で、自分がどのようなことを考えたのか、という方が大事なのはいうまでもありません。その場を記録するのであれば、ビデオテープで録画した方がよっぽど正確に記録できるでしょう。しかし、「メモを取る」ということは、自分のために役に立つ情報をその場で作り出す、ということなのです。これは、その場に参加した人にしか出来ない作業なのです。

メモを取るには、いくつかのコツがあります。

メモを取るコツ

メモを取るスキルは、時間をかけて成長させるものです。これはノートを取るというスキルも同様です(メモからノートを作る、という話題については、そのうち別項で取り上げたいと思います)。しかし、メモを取る際に気をつけるべき点はいくつかあります。

  • その場で書き漏らさない

プレゼンテーションや講演をメモを取る際に、絶対にやってはならないことは、大事なことを書き漏らすことです。大事なことが何か、ということは置いておいて、まずは、話についていきながらある程度のスピードでメモを取るために重要な点について触れておきましょう。

  • 略字や記号を多用する

ただし、その場で略字を作った場合は、その旨をメモとして残すことが大事です。後で何を書いたか忘れてしまいます。

  • 字はきれいに書こうとしなくても良い

きれいな字を書こうとするよりも、必要な情報を聞き漏らさないように神経を集中します。メモを元にノート化する際に清書するようにしましょう。

  • 漢字を思い出そうとする時間は無駄

漢字を思い出そうとしている間は、話を聞くことができません。迷うよりもカタカナでさっと書いてしまいましょう。漢字にするのは後でいいのです。

  • 今聞いている話を単純化する

プレゼンテーターが話している内容には、話の本筋から外れた部分や、場を和ませるためのジョークなども含まれます。このような情報を書き留めておく必要が無いと思ったなら、ばっさりと切り捨てることも大事です。今聞いている話を分かり易くまとめ、話の流れの要点を書き留めることがメモの目的なのです。

  • 情報の取捨選択をおこなう

今話し手が話している内容は、書き留める必要のあることですか? 自分が既に知っていることであれば書き留めるよりも「○○に関して」とか「××の概略」などという形で書き留めるのも良いでしょう。また、話し手が書籍を執筆している場合には、その内容と類似した話題になる場合もあります。その際には「「書籍名」の内容」という書き方もできます。

  • 要点を書き出して箇条書きに

要点は「主語・述語」を明確にして書きましょう。単語だけでは後々誤解する元です。箇条書きや要点を線で囲うことで図として扱うことができるようになります。つまりブロック化して扱えるようにする訳です。

  • 図形や矢印を多用する

時間の流れ、話題の流れをブロックでまとめ、それぞれのブロックを矢印で繋げると、視覚的に流れを掴みやすくなります。プレゼンなどで提供される話題の「流れ」を見つけ出すと、話を掴みやすくなります。また自分の中のコンテンツと共感しやすくなり、自分の中で話題が膨らませ易くなります。このようにして自分の得意分野と連結することで、話題提供者に対する質問も考え易くなります。

  • 質問を考える

思いついた疑問は、全て書き記しておきましょう。その疑問はあなただけが思いついたことです。忘れてしまったとしても、誰も思い出してくれません。話の流れごとに、素朴な疑問を欄外に書き入れておくと良いでしょう。そして、それらの疑問が話題提供者の話を聞いているうちに解消されたなら、解消された話題のブロックと質問とを線で繋いでおくと忘れません。
ですが、自分で思ったことは自分で思ったこととして区別しないといけませんので、書き込む場所やペンの色を変えましょう。ペンの色を変えるほどの余裕が無い場合にも、メモ用紙の余白部分に疑問点などを記すようにした方が情報が整理されます。コーネル大学式ノート作成法(後述)では、講義直後に質問事項をキュー欄に記すが、これをリアルタイムで行うようなものだと考えてもらえば良いでしょう。

  • あいまいな点を聞き直す

話題提供者とオンタイムで会話できる機会は限られているはずです。ですので質問のための機会は余さず活用しましょう。あいまいだなと思ったら、質問し、納得できたら、その要点を資料に必ず記載しましょう。「?マーク」を行頭に出して箇条書きすると何が問題なのか整理できます。このような略号の応用も大事ですね。

他のテクニック
  • メモ用紙の使い方
    • 自前で用意したメモ用紙の場合、案件一件につき一枚利用し、両面を使わない方が良い
    • ノートではなく、メモであるため
  • 事実と感想を分けて書く
    • 自分の感想も感想ということが分かるようにして書き込む
    • 自分の経験を踏まえたアナロジーを出すと理解が深まる
清書する

さて、何のためにメモを取ったのかを再確認しましょう。高校の授業までのようにノートに書き写すだけでは学習は成立しません。さぁ、確認しましょう。メモを取ることだけが目的になっていませんか? メモは見直し、清書しなくてはなりません(もちろん自分にとって清書するだけの価値があるものに限ります)。もしも講演などで、内容が書籍にまとまっていることの繰り返しであれば、それはわざわざ清書する必要はありません。メモのうち自分に役に立つことを書籍に追記しておくだけで十分その役に立ってくれます。
しかし全く目新しいことであれば、これは自分でノート化しておくことによって後々に参照できるようになります。メモは見直して清書することで、まとまったドキュメントとして役立てることができます。重要なことは後で使うものをノートとしてまとめることです。後で二度と見返すことのない内容をノートとしてまとめても、それは単に時間の無駄でしかありません。

メモからノートへ

自分で活用できる情報への発展
ノートの公開と共有

ノートを公開するということは、自分の頭の中を公開するようなものです。人によっては「なんでわざわざ自分でまとめたものを他人に見せなきゃならないんだ」と思う人もいるでしょう。しかし、世の中には同じような事柄について考えている人もいるでしょうし、その人たちの意見を聞くことも良い勉強になります。
自分がある程度のレベルにまで達していることを示さない限り、周囲もその話題に乗ってくれることは希です。そのための「手みやげ」のようなものとして自分のノートを公開するのは一つの良い戦略でしょう。
また、企業などでノートやノウハウを共有することは、プロジェクト自体の進行を早めることになります。知識やノウハウを誰かが独り占めしているよりは、部署やグループで共有する方が、全体の利益が高まる傾向にあります。

  • オンラインでノートを公開する

Webページの作成は、オンラインでノートを公開するための一つの手法です。たとえばブログというシステムは、HTMLといったWebページ作成のための手間を大幅に省いてくれます。しかし、全てをブラックボックスに入れておくよりも、プリミティブにHTMLを自ら操ることで、Webページを組むという方法についても知っておいた方が良いでしょう。
Webページの作成についての具体的な方法は、今後の講義で扱います。



ネットワークサービス基礎

無料ファイルストレージ

USBメモリなどを常時携帯していれば良いのですが、残念ながら忘れてしまった場合などには、無料のオンラインストレージサービスを利用すると良いでしょう。メールでは制限がある容量の大きなファイルにも対応できます。
Yahoo! Japanのアカウントを持っている人であれば、Yahoo!ブリーフケースを利用するのが手軽でしょうし、さらに大きな容量が必要な方は、そのほかの無料ストレージを利用すると良いでしょう。例としてMEGAUPLOADというサービスを紹介しておきます。

自由に利用できる画像の検索とクリエイティブコモンズ

プレゼンテーションや写真が必要な場面は、意外とよくあることです。特にビジュアルによってプレゼンテーションやさまざまなドキュメントに説得力を持たせることが可能になります。しかし、自分で高品質の写真を用意するには、機材や手間が必要になり、なかなか敷居が高いのが現状です。しかし、現在ではオンライン上でさまざまな画像ファイルを利用できるようになってきています。

これらの利用に関するライセンスは、「クリエイティブコモンズ」と呼ばれています。もし、画像などを利用する場合には、クリエイティブコモンズの理念をよく理解し、そのライセンスに反さない範囲で利用させてもらうようにしてください。

オンラインで画像編集

現代は、写真を撮るためのデバイスが広く行き渡った時代です。携帯電話の写真機能をはじめとして、コンパクトなデジタルカメラを持ち歩いている人も珍しくありません。このようなデバイスで記録したデジタル写真は、加工・編集することで、さまざまな素材として利用することができるようになります。しかし、このような加工には、従来専用のソフトウェアが必要でした。特に高度な編集作業を行うためのソフトウェアは価格も高く、画像編集自体、なかなか敷居が高かったといえます。

ですが、最近になって画像編集もオンラインで行えるようになってきました。加工自体は基本的なものですが、一般的な利用に関しては十分でしょう。

アカウントを作成する必要もありませんし、出先でも気軽に使えます。プレゼンテーションやWebページの作成に活用してみてください。

ToDo管理

何かのプロジェクトを実行するには、様々なタスクをクリアせねばなりません。そんなに難しく考えずとも、「やらなければならないこと」をリストアップし、それらを片端から潰していく、という戦法は時間を有効に使う上で極めて重要です。

特にさまざまなことをしなくてはならないのに、ぐずぐずしがちな人(私自身もそうです)には、GTDと呼ばれる方式をお勧めしておきます。




参考資料

課題

  • 発表スライドの作成
    • 11/26の週はスライド作成実習とする(自宅で作業することを選んでも良い。ただしファイルを期日までに提出すること)。
    • 資料となるファイルを12/1までに佐々木宛にメールすること。容量は5MBまでを目安とする。
  • 発表は12/2に行う。一人持ち時間は15分とする。
  • プレゼンテーションを聞き、内容をメモするためのノート(ルーズリーフでも良い)を各自一冊準備すること。このノートは全員のプレゼンテーション発表が終わり次第提出することになります。また、ノートの記法については今後伝達します。