06年度秋学期情報基礎演習第四回
プレゼンテーションの準備と各種メソッドの紹介
プレゼンテーションの心構え
まず、プレゼンテーションのうち大事な点をもう一度おさらいします。
プレゼンテーションを行うということは、「伝えたいことがある」ということが前提になっています。伝えたいことが無い場合、プレゼンテーションを行う必要はありませんよね。そして当然ながら「口頭での伝達」を選んでいる、ということでもあります。他にも情報の伝達の手段は色々あります。しかし、あえて相手の時間を拘束する「口頭での発表」を選択しているのだと考えて下さい。そうすれば、プレゼンテーションの時間は出来るだけ大事にせねばならないこと、そしてきちんと自分の伝えたいことが伝わらなければ失敗だという危機感が生まれてくるはずです。
口頭でのプレゼンテーションの時間は、現代においてはそれだけの貴重な時間なのだと自覚することが大事です。
スライド資料作成までの準備
最近のプレゼンテーションでは、スライド資料を利用することが多くなっています。しかし、スライド資料は資料と位置づけられていることからもわかるように、あくまでもプレゼンテーションの脇役に過ぎません。資料を作成する前に、プレゼンテーション自体の骨子をきちんと決めておかねば、いくら見栄えの良い資料を作成したとしても、全く生きることはありません。まずはスライド資料を作成する前に、きちんとした準備を行い、プレゼンテーションの質を高めるようにしましょう。
きちんと伝えるために
プレゼンテーションが失敗するということは、自分の時間はもちろん、相手の時間も無駄にするということです。時間を無駄にするというのは、現代では大きな罪悪の一つです。
それではプレゼンテーションが失敗しないようにするにはどうしたらいいでしょうか? それは最低限「言いたいことが相手に伝わる」ようにすることです。
よく考えましょう。そのプレゼンテーションであなたが言いたいことは何でしょう。そこがよくわからなくなっていませんか? まずはあなたが伝えたいことを紙に書き出して下さい。そこからスタートです。スライドの見栄えや、奇麗な図は後で何とでも調整できます。しかし、「何を伝えたいか」が明確になっていないとそれすらできません。
紙に何が伝えたいかを書き出しましょう。
資料の収集
紙に何を伝えたいかを書き出しましたか? 今書き出したいくつかのキーワード、それがプレゼンテーションのテーマであり、プレゼンテーションの目的です。これから少しでも迷ったらここに戻ってくることになります。
それでは発表のために資料を集めましょう。もしも既に十分な資料が入手できている場合には問題ありません。しかし、本当にその資料で十分ですか? もしも少しでも不安がある場合には、
前回の講義の内容を参照しつつ、資料を収集してください。十分な資料で裏付けを取りましょう。資料は集めれば集めるほど発表内容に深みが出ます。
資料は十二分に集めましょう
プレゼンテーション時間の確認
さぁ、あなたの発表するべきテーマも明確になり、それに基づいて資料も収集され、自分の立ち位置もはっきりしたと思います。
それでは発表スライドの作成にとりかかりましょう、と言いたい所ですがまだまだそれは先の話です。次に行うことは、発表時間はどれくらいか? という点を確認することです。
たとえ詳しく伝えたいことがあったとしても、たかが数分の Lightning Talk の時間では伝えられることはわずかです。与えられた時間というのは自分にとっても相手にとっても貴重な時間です。ですから時間をオーバーしたり、逆に時間を余らせたりすることは御法度です。ですからここで自分に与えられた時間をきちんと確認することが大事です。
自分が使える時間をきちんと確認しましょう。
ストーリーを作成する
テーマは決まりました、時間も確認しました。だいたいどの程度のことが伝えられるかがわかりましたか? ここで発表のためのストーリーを作成することになります。
ここでストーリーって何? という人もいるかと思います。
まず、プレゼンテーションでは聴衆にとって「なるほど」と思うような体験が求められると思って下さい。聴衆が「で、それで?」とか「だからどうしたの?」と思われるようなプレゼンテーションは失敗です。聞いている人はわざわざ時間を取ってくれているのですから、それに見合う体験を求めています。そのためには、発表自体が支離滅裂な順番で情報を提示するものではなく、きちっと一つの物語となっている必要があるのです。物語といっても小説のようなものではありません。聴衆が内容をスムーズに理解できるように提示された情報をストーリーというのです。話題の提示の順番が聴衆の理解のために重要なのです。ただし、相手があっと驚くような奇抜さよりも、聴衆が納得できる論理的なストーリーを用意するべきです。
さて、ここでもう一つ明確にしておくことがあります。そのプレゼンテーションを聞くのは誰かという点です。相手が上司か、友達か、近所のおばちゃんか、幼稚園児かによって、どのように情報を伝達するかの選択基準が変わります。つまりストーリーが変わるのです。
しかし、突然ストーリーを組み上げろ、と言われても、慣れない人にはなかなか難しいでしょう。そこで、いくつかストーリーの組み立て方を紹介します。なお、ストーリーは発表の際の「本論」に当たる部分での進行です。この前には「イントロダクション(挨拶と背景説明)」が入り、「本論(発表者の主張となる部分)」を経て「まとめ」と終わることが多いようです。また、どの方法を用いるかは、聴衆にとって、最も理解しやすい話の流れはどれかという観点で選択します。
SDS法
- Summary(全体要約)
- これから何を話すかについて要約し、論旨を明確にします。
- Details(詳細説明)
- 本論を要約に基づいて詳しく話します。
- Summary(全体要約)
- もう一度何を話したかをまとめて印象づけます。
PREP法
- Point(要点)
- まず自分の言いたい結論を述べます。
- Reason(理由)
- なぜそのような結論になったかの理由を述べます。
- Example(具体例)
- 結論に結びつく具体例、実例、事例を伝えます。
- Point(要約)
- 最後に要点を繰り返して締めくくります。
時系列法
- 過去
- 過去の事例について述べます。
- 現在
- 続いて現在の事例についても述べます。ここまでは事実に基づきます。
- 未来
- 過去と現在の事実を元にこの先予測されることを示します。
スライドを作成する前に
ここまでがスライド資料作成までに最低限やっておかねばならないことです。次に実際にスライドを作成することになりますが、パワーポイントの操作の方法についてはこの資料では記しません(パワーポイントの具体的な操作については、良い参考書が沢山出ていると思いますので、そちらを参考にすると良いと思います)。この資料では、どのようなスライドが必要であるか、またスライドをどのように設計するか、という点に焦点を当てて解説を行います。
スライド資料の作成
やっとここまでたどり着きました。この時点ではっきり意識されている要素を挙げます。
- プレゼンテーションのテーマ
- プレゼンテーションに使える時間
- 誰に対してプレゼンテーションを行うか
- どんな順番で何を話すか
ここまで決まってくれば、プレゼンテーションの資料に何を掲載すれば良いかが見えてくるはずです。しかしまだ待って下さい。プレゼンテーションの資料を作成するにあたって、どのようなスタイルで発表をするかも決めておきましょう。おおまかに分けると、三種類のスタイルに分類されるのではないでしょうか。
- じっくりと説明を加えながら進める
- 一般的な学会発表スタイル。1枚のスライドをおよそ30秒から1分程度の時間をかけて説明します。
- スピード感とインパクトを重視する
- 高橋メソッドとその亜種。大量のスライドを並べてストーリーを進める手法です。詳しくは「高橋メソッド」を参照してください。また、「http://www.identity20.com/media/OSCON2005/」でのプレゼンテーションも同様の手法だと考えられます。
- 聴衆に考えてもらいながら進める
- もんたメソッド。アナログなプレゼンテーションでは常套手段。詳しくはhttp://www.bricklife.com/weblog/000626.htmlを参照。
もちろん全てがこの3種類に集約される訳ではありませんが、一つの目安にはなるのではないでしょうか。
上手なプレゼンテーションを参考にする
ここで、一つ上手なプレゼンテーションの例として、Apple 社 CEO のスティーブ・ジョブス氏によるプレゼンテーション場面を見てもらいたいと思います。
http://macworld.apple.com.edgesuite.net/mw/index.html
特に発表のスタイルや、スライドに注目して下さい。このプレゼンテーションでは、以下のことが分かると思います。
- スライド上に「文章」が記載されていないこと
- つまり画像をメインにしているということ
- 一枚のスライドに複数の項目が表示されていないこと
- 会場のどこからでも見られるように大きな画像を用いていること
- 説明がプレゼンテーター自身から語られること
またスティーブ・ジョブスによるプレゼンテーションに関して考察を行ったブログのエントリーに、「Life is beautiful: スティーブ・ジョブスに学ぶプレゼンのスキル」があります(必読)。
もう一度自分の伝えたいことを確認しよう
さて、ここでもう一度自分の伝えたいことに戻ります。今回のプレゼンテーションで必要な要素は網羅されていましたか? その並び順で本当にいいですか? 誤解されるようなところはありませんか? 説明は一足飛びになっていませんか?
情報をきちんと書き出せていたら、それだけでプレゼンテーションの半分は完成です。あとはその設計図に従って、資料を作成しましょう。細かい部分については各プレゼンテーションソフトウェアのマニュアルを参照するようにしてください。
ただ、それだけでは不親切でしょうから、以下のようなことに気をつけて資料を作成しましょう。
スライド作成の鉄則
スライドは読むものではなく見るもの
- 文字は多くしない
- 一枚のスライドにはひとつの話題しか書かない
- 一枚のスライドに5-7行程度が上限
- 箇条書きは長くしない
- 箇条書きの1項目は2行まで
- 文字は大きく書く。最低でも20ポイント以上にする
- できればもっと大きくする
- 画像を多くする
- 画像を使うと直感的な理解をされやすい
- 引用の場合には引用した件をきちんと書く
- 視線の流れを考える
- 上から下、左から右へ
- 色合いを派手にしすぎない
- 長時間見ても疲れないものにする
- 配色に注意する
- 配色についての情報は、NICT - トップページ | NICT-情報通信研究機構に、http://www2.nict.go.jp/v/v413/103/accessibility/minna/point11.htmlとして、よくまとまったものがありますので参照して下さい。
ネットワークサービス基礎
共有資料を当たる
参考文献
でかいプレゼン 高橋メソッドの本
- 作者: 高橋征義
- 出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ
- 発売日: 2005/11/29
- メディア: 単行本
- 購入: 5人 クリック: 717回
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プレゼンテーションの話題、ということで、こちらの書籍を紹介します。ここ最近になって流行しているプレゼンテーション手法として「高橋メソッド」というものがあります。これは「文字が大きい」「やたらとスライド枚数がある」「一枚の提示時間が非常に短い」といった特徴のある発表手法です。
この書籍はその高橋メソッドを考案した高橋征義さんによる高橋メソッドの解説のための書籍です。ただ高橋メソッドを紹介しているだけではなく、高橋さんがプレゼンテーションの前にどのようにして準備を行っているか、という部分が中心になっています。その部分はぜひ参考にするべきです。試行錯誤と推敲は、プレゼンテーションをより高い段階に押し上げてくれます。
高橋さんが本書の中でも言っていますが、高橋メソッドは冗談のような手法です。しかし、実際に利用をされている本気の手法でもあります。その微妙なバランスに立った手法だということを理解した上で活用するには面白い手法だと思います。
図書館に訊け!
- 作者: 井上真琴
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/08/06
- メディア: 新書
- 購入: 4人 クリック: 295回
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課題
- プレゼンテーションで参考資料とすることができるWeb上の資料を検索し、日記でURLを紹介する。また、内容についても要約を載せること。ただし、Wikipediaについてはあまりに基本的な情報源であるので、参考資料として上げてはならない。
- プレゼンテーションの展開を整理し、聴衆が納得するための論理展開となっているかを確認するために、プレゼンテーションの展開を日記に書いて整理しておく。少なくともスライド資料のタイトル(実際に利用するタイトルとは異なっていてもよい。「導入部」と「はじめに」のような違いは当然あるものと考える)と、そこで主張される内容のサマリーを箇条書きで書いておくこと。